未明の雨に空気は洗われ、播州平野はどこを走っても心弾む。薄曇りの空が広がり、所々、ぽっかりと青空が覗き、青空を縁取る雲、灰色の薄雲にとりわけくっきりと白く浮きあがる雲、播州の、おそらくは北の果てだろう峰の連なりの青、その濃淡を見るも楽しく、水田や土手の緑が次々と現れ、嬉しくなるのだ。大窪から岩岡にあがると、稲美町につながる平野にでる。ここからは大窪よりちょっと高い高原が広がる。緑の田園地帯の中をアスファルト道路が走り、左右には田んぼが広がる。その広がりのなかに、お屋敷と言ってもいいような、立派な農家が点在する。

 ある箇所でハザード・ランプを点滅させ、停車する。八方が開けているが、北方の山嶺が青く伸びているのが鮮やかで、かつ心静まるように思えたので、車を止めた。山の青、雲に縁取られて覗く空の青、どれも心にかなって、私は胸が弾むのだ。昔の新潮文庫の『青い山脈』の表紙絵がふと思い出される。その青い山脈を、去年の秋田旅行では堪能したが、今日は遙か遠くとはいえ、はるか遠くのゆえにかえって憧れをかき立てられ、岩岡から播州の北の果てに横たわる青い山脈のさまを眺め、喜ぶことができた。右手、つまり東には神出山、背後、つまり南は大窪越しに淡路島、わずかに海がみえる。